今日も終日お寺めぐり

町田暮歩のお寺探訪記。お寺参りはこんなに楽しい!

天才仏師のすすけた仏 ― 安養寺 ―

唐古遺跡 奈良田原本町
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天才とはそう簡単には現れないもの。

仏師、つまり仏像をつくる人のことですが、仏師の中で天才といえば、やはりまず運慶・快慶の名があがります。二人は仏師 康慶(運慶の父)の弟子で、平安時代末から鎌倉時代にかけて活躍しました。

運慶・快慶とくくられて紹介されることも多いですが、兄弟弟子の二人が共に活動したのは初期の頃だけのようで、有名な東大寺南大門の仁王像(阿形)は共作だといわれますが、その後運慶と快慶は別々の道をたどったそう。

一般に運慶は力強く躍動感のある仏像を、快慶は理知的で端麗な仏像を彫ったといわれます。運慶は芸術家であり、快慶は宗教家だ、という言われ方もします。
二人が活躍した時代から800年が経ちますが、運慶と快慶を超える仏師が現れることは、おそらくもうないだろう、誰もがそう思う、そんな天才が仏師の世界にもいたのです。

話は飛んで奈良県田原本町の安養寺。町中の小さなお寺ですが、「おてらおやつクラブ」という活動をなさっていて、それで私も「おてらおやつクラブのお寺」として知っていました。

以下ホームページから引用させて頂きます。

おてらおやつクラブとは

日本国内において子どもの7人に1人が貧困状態にあります。「おてらおやつクラブ」は、全国のお寺と支援団体、そして檀信徒および地域住民が協力し、慈悲の実践活動を通じて貧困問題の解決を目指す活動です。

「おてらおやつクラブ」は、お寺にお供えされるさまざまな「おそなえ」を、仏さまからの「おさがり」として頂戴し、子どもをサポートする支援団体の協力の下、経済的に困難な状況にあるご家庭へ「おすそわけ」する活動です。活動趣旨に賛同する全国のお寺と、子どもやひとり親家庭などを支援する各地域の団体をつなげ、お菓子や果物、食品や日用品をお届けしています。

「おてらおやつクラブ」HPより


この「おてらおやつクラブのお寺」に快慶作の仏像があることを、この春発行された『祈りの回廊』(奈良のお寺情報誌)を見るまで全然知りませんでした。
普段公開されない秘仏ですが、この秋に特別拝観がありました。

これはその時、9月の半ばのこと。

近鉄田原本駅を降りると、古い建物が残る何とも風情ある町並み。ここから北を指して20分ほど歩けば安養寺。

道中見つけてしまった古書店に入ってつい長居。古書店にはお寺や仏像関係の本もいろいろ置いてあって夢中になります。まあまだ昼過ぎ、あせることもありません。
『古寺辿歴』(町田甲一著)と『日本紀行』(井上靖著)を買って重たくなったカバンを肩にかけ、再び歩き出します。

それにしてもこの辺りの路傍の石仏の多いこと。見つけるたびにのぞきこんで手を合わせるものですから、なかなか前に進みません。

結局一時間以上かかってやっとたどり着いた安養寺。

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境内に入ると人が並んでいます。
新型肺炎拡大防止のため、お堂の中へは3人ずつの入場。
小さなお堂の中ではボランティアガイドのおじさんが仏像の説明をしています。その解説と質疑応答が一通り終われば、次の3人が入場。

私と一緒になった2人はかなり仏像好きのようで、ちょっとマニアックな感じの方々。3人ともしゃがんだり背伸びしたり顔を傾けてみたり、失礼ながらガイドのおじさんの解説は耳半分。
おじさんの解説する間しか拝観できないのですから仕方ありません。

仏像は三尺(約90cm)足らずの阿弥陀様の立像。快慶初期の作だそうですが、さすがは快慶、指先の繊細さ、流れるような衣紋、殊に太ももにまといつく薄い衣の様子は、本当に美しい。しかし何より気にかかるのは、そのお姿の黒いこと。何でも昔はこの仏様の前で護摩供養が行われ、わんさか木札を焚いたので、仏像もすすけて真っ黒になってしまったのだそう。

恐ろしい忿怒の形相の不動明王や、勇猛な毘沙門天の御像が護摩供養で真っ黒になった姿は何とも似つかわしいもの。しかし快慶の麗しい仏様がすすけてしまっては、せっかくのその美顔も厳しくなってちょっと恐い。
私は仏様のお顔を、湿した柔らかい布できれいに拭ってさしあげられたらどんなにいいだろうと、おじさんの解説を聞きながら思っていました。今昔物語なら、きらきらと輝いた阿弥陀様がにっこり私に微笑むところですが、しかし文化財の保存というのは難しい問題で、現状維持が基本方針、ただ綺麗にしてしまえばいいというものでもないようです。

私はすすの下に隠された仏様の尊顔を見出そうと、目をこらしてその真っ黒なお顔を懸命に見つめました。
おじさんの解説が終盤にさしかかる頃、ふいにそのお顔が優しくこちらを見つめて下さったように感じ、この時ようやく私は合掌し、深々と頭を下げました。

本堂には「おてらおやつクラブ」の活動に関わるものがいろいろ置かれていました。
私は支援活動といったものをこれまでちゃんとしたことがありません。何かしてみたいと思うことはあるものの、なかなか行動には移せません。そういう活動に参加する人は、特別なきっかけとか、想いがあるのかなあ、と考えたりします。

何が良くて何が良くないのか、良いと思ってしたことが思わぬ結果を導いたり、考え出すと、分からなくなってしまいます。そんな時はすべて仏様にまかせてみたい気持ちになります。

私は仏様の前に置かれた賽銭箱に、気持ちばかり多めのお賽銭を入れて、南無阿弥陀仏と念仏を十ぺん称えました。

平凡な毎日を過ごしている私は幸せなのだと思いました。
まして私には、お寺参りという楽しみまであるのですから。

― 今日の一冊 ―

運慶・快慶と慶派の美仏 (エイムック 4166)

運慶・快慶と慶派の美仏 (エイムック 4166)

  • 発売日: 2018/10/10
  • メディア: ムック